左京区に関わる素敵な変人インタビュー

日本人よりも日本の伝統工芸を愛する変人

NPO法人JapanCraft21ディレクター
バイメル・スティーブエン氏

プロフィール

米国カリフォルニア州生まれ、京都市左京区在住。約50年前に初来日、暮らしのなかにあるものがすべて手作りであることに感動し日本の伝統工芸に興味を持つ。シンプルかつ優れた機能美を持つものを生み出す職人技に魅了され、海外の芸術愛好家たちを対象に日本の文化をクローズアップしたツアーを専門とするツアー会社を設立。2018年にJapanCraft21を設立、2023年にNPO法人化。約35年日本在住、日本の伝統工芸の再生のために力を注いでいる。

「日本の表現技法は非常にレベルが高く、
目にすると感動して涙が出るほどの素晴らしい技術です。
日本の伝統工芸の衰退は、日本のみならず世界的な問題です」と熱く語るバイメルさん。
日本人よりも日本の文化を愛し伝統工芸の未来を心配しています。
そんなバイメルさんに、来日のきっかけやどんな思いで活動しておられるのか伺いました。

——初めて日本にきたきっかけは?

1971年3月にYMCAのプログラムで英語の講師として仙台に来日しました。大学卒業後、子どものころから興味のあった日本で働くことを選んだのです。住居は職場から用意してもらえました。キャビネットを開けてみると、いろいろなお皿がありました。当時、アメリカではプラスチック製のお皿が流行っていて、用途が違っても、同じ素材、同じ色のもの使っていました。でも、日本のお皿はそれぞれ違って、食べるたびに組み合わせも変わってくる。陶器、磁器、そして、漆器のお汁椀があり、とても興味深く感じました。当時は、陶器と磁器の区別もつきませんでしたし、今思うと、さほど上等なものではなかったと思いますが、それでもきれいだと思いました。竹で作ったブラシやザルなどもありました。すべて機械で作ったものではなく、手で作られている。部屋は障子や襖で仕切られていて、布団で眠る。なんだか別の世界に入ったような気持ちになりました。なんでも小さくてこじんまりしていてかわいい。当時の布団は小さかったので、座布団を足して使っていました。
英語の授業中にお茶を出すので湯呑みを買うことになりましたが、陶器の種類が多く選択肢があり過ぎて迷いました。そのときにいただいた急須が萩焼で、一眼見て、萩焼に惚れちゃったんです。その湯呑みで煎茶を飲んだり漬物を買って食べたりしました。最初は、漬物の食べ方を知らなくて、食パンの上に漬物を乗せてケチャップをかけて食べました。ちょっと変わった味だなと思いました。それから近くの食堂に行くようになって定食を食べるようになりました。日替わり定食を毎日食べました。
当時、仙台に住んでいた外国人はほとんど宣教師。専門の英語講師は私一人でした。夜は学生を対象に、昼は元・駐在員の妻など女性を対象に英語を教えました。私は日本語が覚えたくて、半年間で約二千もの漢字を学びました。

——陶器についてはどこで知りましたか?

今もそうかもしれませんが、当時、デパートで展示会などがありましたし、陶器の店もありました。そして、教えている婦人英会話の生徒さんたちが文化人で、お茶やお花、鎌倉彫などをしておられて、みなさん詳しかったので教えていただきました。私自身が興味があったから、教えてもらえたのだろうと思います。アメリカにいるときからいろいろな文化に興味があり、美術館にもよく行きましたが、当時のアメリカの美術館には、江戸時代の有田焼や薩摩焼などしかなかったと思います。それも見たことがありませんでした。

——その後はアメリカに戻られたのですか?

はい、4年後にアメリカに帰国しました。生まれたばかりの甥へのお土産として、こけしや郷土玩具、駒などを持って帰りました。大事にしてくれて、今も持っているそうです。帰国して二週間ほど「こんなに素晴らしい魔法みたいなところがある」と日本のことばかりみんなに話しましたが、素晴らしさはあまり伝わらなかったようです。
でも、たとえば、漆の器を見ても、それがどうやってできているのか、ストーリーを知らなければ素晴らしさはわかりませんよね。それはきっと、日本の今の若い人たちも同じかもしれません。どれほど作るのが難しいのか、どれだけ時間をかけて、何ヶ月もの間、漆をかけたり削ったりを何度も繰り返しているのか。そのプロセスを知らない。漆を英語に訳しても「ラッカー」という言葉になる。だけど、ラッカーはホームセンターで購入できるものだと思われてしまいます。一本の漆の木から200グラムしか取れない貴重なものだということはわからない。当時は、私も説明できませんでした。でも、ツアー会社を設立して、ちゃんと説明できるようになると、みなさん感動しておられました。

——ツアー会社はいつ設立されましたか?

1992年です。帰国後、造園関連の企業を経営する日本人 と知り合います。約130種類の植物を扱い全米に卸している中小企業でしたが、日本語とスペイン語 が話せることから即日採用され、通訳兼ゼネラルマネージャーに就任、後にパートナーとなりました。おかげでアメリカにいたけれど、毎日、日本語を使っていました。そこから、どうしても日本に帰りたくて、日本の文化を紹介するツアー会社を作って、日本とアメリカを往復して暮らせるようにしました。時間はかかったけれど、ようやく日本に帰れたと思いました。日本に戻れた、ではなくて、帰れたという気持ちでした。

——ツアーでは日本のどんなところに案内しておられましたか?

一般のツアーは日本のなかで何ヵ所も移動します。でも、京都だけでも新旧の素晴らしい場所があります。だから、移動する必要はないと思い、11泊の京都ツアーを作りました。ウォーキングツアーです。電車やバスも使いますが、できるだけ足で歩いて散策するもので、日本の庭園をまわるガーデンツアーです。例えば、1日目は七条の民宿から電車で出町柳に移動して、歩いて、銀閣寺、法然院、そして、哲学の道を歩いて、どこかでごはんを食べて南禅寺に行きます。南禅寺の能面師さんとなかよくなり、工房によく行きました。そして、庭の見方を教えました。ただ見るだけだと疲れてしまいます。いつどんな人が建てたという話ではなく、庭園の石のサイズと配置を工夫することで、遠近法で奥行きを見せていることや、庭の木の枝の向きによって、見る人の視線をどこに向けさせているのかなど。ツールとして庭の見方を伝えると、私がいなくても庭を楽しめるようになりますよね。11泊のツアーの間に25ヵ所ほどの庭をまわります。でも、それぞれ全部違います。それだけたくさんの庭を回るので、ツアーが終わるころには、みなさん庭のことを、ちゃんと理解できるようになっているのです。

——ほかにはどんなところに行きましたか?

お寺にも行きましたので、お寺の造りも説明しました。蔵のことや、書院造や数寄屋造などの違いなど伝えました。教えないと全部、みんな同じに見えてしまって疲れてしまいます。日本のお寺は、窓から、そして、門から見たときに、非対称なのにバランスが美しく額に入れた絵画のように美しい。でも、西洋人は縁側の一番端のほうから庭の写真を撮ろうとする。部屋のなかから撮るほうが素晴らしさがわかります。日本の建築物にはそういう概念がある。その概念を伝えるのです。お寺に案内するときも、門から入る前に、まず、「門から見た景色が既に絵画である」ということを伝えます。この積み重ねてきた文化の素晴らしさ、日本人のみなさんも気づいていないのではないでしょうか。

——庭の見方はどうやって知りましたか?

たくさんの庭に関する書籍を見てきましたが、ほとんどが何年にどういう人が建てたとか、石の名前とかしか書かれていません。どう作られたのか書かれた数少ない書籍を見つけてバイブルのように勉強してきました。

——日本の伝統文化の危機についてはいつ感じましたか?

ツアー会社を始めたころから気づいていました。たとえば、藍染の店に行くと「この絞りは最後です。もう作っていません」言われます。この「これが最後」という言葉をいろいろな分野で聞くようになりました。そして、だんだん選択肢が減っていきました。いろいろな人と話したけれど、ベストな答えはやっぱりわかりません。原因を深く調査している人が少ないんです。例えば、西陣の着物について「若い人は着物は着ない」という簡単な答えではないと思います。もっと複合的なものだと思います。
考えられることとしては、一つは文化の土台が変化したことです。中小企業の社長や、お店のオーナーといった成功者の人たちは、昔は、お茶や書道などの文化のメンターでもあり、茶道具などを揃えていました。でも、70年代から、そうした人たちの趣味がゴルフに変わった。それもひとつの原因かもしれません。道具は使いながら自然に知識が伝授されるものだと思います。もう一つは、核家族化です。三世代でいっしょに暮らしていた家族が、現在は二世代だけで暮らしている。両親が忙しくても、おじいちゃんやおばあちゃんが孫に文化を伝えていたはずです。その流れが途絶えてしまった。3つ目に考えられるのは、お葬式の場所が変わったこと。昔は寺院が執り行っていたのが、最近は葬儀会社が執り行う。それが早くて便利なのかもしれませんが、お寺との繋がりが弱くなってしまった。お寺は日本の文化の大事な土台の一つ。漆、木工、金工、書道の文化、和紙、墨、筆、表具、線香、織物、染め物、蝋燭、仏壇、宮大工、庭園など文化や工芸の発注が多く出ます。葬儀の収入が減り、大事な文化が大幅に減りました。仏壇を買う習慣もなくなっていった。今は、仏教が暮らしに根づいていません。仏教を熱心に信じなくてはいけないという意味ではなく、文化として減ってしまっているということです。神社も同じです。関わる人が減ると、伝える人、使う人が減っていきます。建築物については、短いスパンで建て替えるような家が増えた。また、和風建築が減り、床の間を作る人が減ってしまった。床の間がないということは、表具屋さんの仕事が減るということ。花を飾る文化もなくなり、花器の需要も減る。そうしたたくさんの流れが考えられます。本当に課題だらけです。
目にすると感動して涙が出るほどの素晴らしい技術は、日本のみならず世界の財産です。日本の伝統工芸の衰退は、日本のみならず世界的な問題なんです。
私たちJapanCraft21は、小さな問題にも目を向けて戦略を作って行動しています。本格的な町家を建てるために、木組ができる大工さんを育てるための塾を作ったり、土壁の職人さんのトレーニングをしたりしました。

——日本の伝統工芸のために私たちはどんなことから始めたらいいでしょう?

もちろん私たちのような団体に寄付をいただければ、たとえば、弟子さんたちの生活費をサポートしたりすることができますし、つながって参加していただければ、いろいろなことができます。ほかにもすぐにできることはあります。例えば、刺繍の針を作れる職人はいま一人しかいません。でも、100人の人が刺繍の針を一本買うだけで、その職人さんの暮らしが変わるかもしれない。今月は、刺繍の針を買い、今月は、曲げわっぱを買う。そうするだけでも変わると思います。プラスチック製の弁当箱よりも、曲げわっぱのほうがよほどおいしいし楽しいですよ。木桶などもそうです。お風呂用に木桶を、みんなが買うようになると、杉や桧を使うことが増える。そうなると日本の森も元気になります。日本の文化を助けるためにもなりますし、本物を使うと、生活の充実感が違ってきます。木桶は匂いも手触りもいいですし、心が豊かになります。これからの世界は、どうしてもAIなど機械に頼ることにはなるでしょう。それも、もちろん大切です。だけど、心で作った手作りのものを忘れてはいけない。今こそ大事なことです。機械が作ったものには、心がありません。命がありません。人間が作ったものをもっと大切にしないといけない。
日本の伝統文化は、もうあと5年しかないと私は思います。30〜40年前に職人は30万人ほどいた。それが、今は5万人しかいない。その5万人のうちの半分ほどが、私ぐらいの年齢です。日本は手作りの国、匠の精神の国です。これから一体どうなるんでしょうか。

——JapanCraft21はどんなことをしておられますか?

活動としては、日本伝統工芸再生コンテストというコンテストを毎年開催しています。伝統工芸を再生させるプロジェクトを見つけるためのアイデアのコンテストです。最優秀賞の人には運転資金500万円を段階的にサポートしています。ファイナリストにも、さまざまなプロモーションをしています。受賞者であるクラフトリーダーは年々増えており、コラボすることもあります。また、伝統的な木組の町家を建てる大工を育てるための「心町家塾」で町家大工を育てています。そして、継承者のための生活費のサポートをしています。アルバイトなどを掛け持ちすることなく、トレーニングに集中するためです。
そのほかに、日本の伝統工芸に関する調査をしています。日本には工芸の分野が1300あると言われていますが、リストが存在しておらず、150ぐらいしかわかっていません。どこでどんなものを作っているのか。30年前と比較してみないと、これから先についての予測ができません。どんな問題があるか、これからも調査していきたいと思います。

日本の伝統工芸や日本の文化について語るときのバイメルさんは、いきいきして情熱的

日本伝統工芸再生コンテストの受賞セレモニーは、毎年2月19日

第1回ロニー賞受賞の堤卓也氏

見て学べる京町家ツアー参加者募集中

築100年の町家で、実際にその構造を見て知って、町家のことに詳しくなれる「見て学べる京町家ツアー」。伝統建築技法による京町家建築に特化した祗園内藤工務店(代表・内藤朋博)が、京都市の京町家賃貸事業として活用している「聚楽猪飼邸(じゅらくいかいてい)」にて、町家の構造や部位の名称について実際に見ていただきながら解説。その後、祗園内藤工務店が建築中の約90年ぶりの本格的な新築町家の現場にも足を運びますので、建築中の工事現場を実際に見ることができます。

日時:2025年5月10日(土) 10:00〜11:30
場所:京都市中京区聚楽廻西町123 聚楽猪飼邸
参加費:無料
問合せ:NPO法人祗匠会
申込み:https://forms.gle/rSWagoYYkv5f5F1m9
NPO法人祗匠会・祗園内藤工務店・NPO法人JapanCraft21共催

第5回日本伝統工芸再生コンテスト 応募者募集中

ものづくりへの情熱とデザインセンスを持ち、より高いクオリティを目指しながら、自分が関わる工芸を発展させ継承しようとしている作家、職人など工芸の制作者、そのプロジェクトアイデアを募集します。卓越したプロジェクトに幅広いサポートを提供します。5月1日から募集開始します。最優秀ロニー賞1名(組)の 副賞はプロジェクト実現の資金500万円。応募必須条件など、詳しくは公式サイトをご覧ください。

NPO法人JapanCraft21事務
Web:https://www.japancraft21.com/ja

NPO法人JapanCraft21とアジア・ソサエティ・ジャパン共催

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