取材を通して「私たちは大切なことを意外に知らないのだ」と思い知らされることは多い。例えば食べ物。食肉となる家畜がいかにして育てられているか、加工食品の原材料など知っているようで知らない。また、自分の身体の機能や臓器のこと。医療関係者以外、学ぶことはほとんどなく、身体に痛みや辛さを感じると医師に頼る。病気になって初めて、自分の身体に目を向ける。でも、大病でもないかぎり、生活を見直す人は少ない。冷え性の女性は多いが、靴下など温める商品は買っても、原因を探求せず「私、冷え性なんです」で止まっている人が多い。冷え性の赤ちゃんはいない。いつから冷え性になったのか、大人になってからなった人が多いと思う。冷たい飲み物の飲み過ぎ。おしゃれのための薄着。運動不足。それぐらいは思いつくかもしれない。義務教育の知識があれば、心臓から血液が身体の末端まで流れていることは知っているはずである。末端が冷たいということは、血流がうまく機能していないのではないかと気づけるのではないか。さらに、「足(ふくらはぎ)は第二の心臓」といった言葉を聞いたことがあれば、ふくらはぎ(腓腹筋)、足首、足の裏を使う動きが、末端から心臓へと血流を戻すために必要であることに気づけるはずだ。暮らしのなかで「歩く」「しゃがむ」と言った足首を動かす動作や、地面を蹴り出す動作が減っていることから、血行不良となり、冷えはもちろん、さまざまな体調不良に繋がっているとは予想できないだろうか。テレビが「一日○分、つま先立ちのポーズ」などの健康情報を伝えると、視聴者から「角度はどのぐらい?」と質問がある。新しい情報に囚われてさらに身体が固くならないか心配になる。大切なのは、不調ならば今よりも身体を「動かす」ことではないだろうか。
28歳で冷え性になったとき、私はスクワットをして、足首を使って歩き、食生活を変えて改善した。昨年、また運動不足による血行不良を感じてからは、しゃがむ、背伸びするといった、腓腹筋を動かすバレエ風のエクササイズを編み出し毎日している。この動き、なにかと似ていると思ったら、ラジオ体操! さすが、よく考えられているものだ。ラジオ体操は、正しくやれば、かなり腓腹筋を使う。
「野生の動物」が健康のヒントになる。50年前から循環農法をしている方に取材したときに、そう教わったことがある。野生動物はなぜ健康なのか。毎日動き、住んでいる土地で採れた作物を食べているからだと。現代は、利便性を追求した結果、世界中で採れたものを食べ、あまり身体を動かさなくても生きていける。乾燥機の出現で洗濯物を干したり取り入れたりしなくなった。エレベーターなどの出現で、階段を昇り降りしなくなった。掃除機の出現で雑巾がけをしなくなった。ちなみに雑巾掛けの動作は、身体や脳の発達に関係しているという説もある。
「教えてもらわなかったからできない」と親や学校に不満を訴えつつ、自ら考え行動する人は少ない。受け身なのだ。知識は与えてもらうものだという固定観念は、日本の教育制度の問題でもあるけれど、そもそも、発想力や行動力が乏しいようにも感じる。知らなくても生きていける便利な世の中が、人の生きる力を奪っているのかもしれない。
昨年12月、家の屋外の排水管が詰まるトラブルがあった。一戸建ての排水は集合住宅より詰まりやすい。以前に詰まったとき、急遽依頼した会社に5万円も取られた挙句、原因はわからずじまい。今回は、夫が自分で見てみると言う。その様子を見たお隣さんも見てくださった。以前、下水の仕事に携わっていた彼のアドバイスで詰まった箇所を突き止め、夫が掘ってみると、木の根が原因とわかった。しかし、夫は翌日から出張。残された私たちは、数日、コンビニのトイレを借りた。年末にやっと、夫が排水管の取り替え工事をしてくれた。普通にトイレを使えることに感謝の気持ちが生まれた。
この一件で気づいたが、自分の家の汚水について、排水処理施設へと流れることは漠然と知っているものの、家の排水管がどこからどこへ向かうか知らなかった。どこから水がやってきて、どこへ流れていくのか。私たちが買うものがどこでどう作られ、使用後に捨てたゴミは、どこでどう処理されて最後はどうなるのか。人間の暮らしにまつわるモノの流れを、知る必要があるのではないか。その流れは一方通行ではなく、地球のためには循環されるべきではないのか。そう思っていたら、ごみ減量推進会議、通称「ごみ減」に関われることになった。
そろそろまた大きな災害が起こると発信している人もいる。インフラが整った環境で暮らし、困ったら専門家に頼る。そのインフラが失われたとき、水をどう手に入れ、どうやって暖を取り、どう健康を守るのか。地球で生きるために必要な知識と技術を、私たちの多くは得ていない。いまこそ、体験を通してそれを身につけなければ、大自然を前に、想像以上に私たちは脆いのではないだろうか。
左京変人図鑑 副編集長 藤嶋 ひじり