編集ライターという仕事をしてきて感じるのは「言葉」の扱いの難しさ。私たちはそれぞれ異なる環境で、長い時間をかけて、暮らしのなかで日本語をインプットしていく。同じ日本人であっても、その言葉の定義の認識が一致しているとは限らない。仮に定義の認識は似ていたとしても、その言葉の持つイメージは多様なはずだ。それにも関わらず、私たちは相手も自分と同じように、その言葉を解釈しているであろうとの予測の元に会話している。日本人同士だから、わかりあえるはずだという前提で、話をする。わかり合うべきだ、わかり合うことが重要だ、わかり合うことが愛情だと考えている。だから、トラブルが起こる。たとえば、「家庭」という言葉を聞いたとき、温かいものだとイメージする人もいれば、閉塞感、冷たさ、不快感をイメージする人もいる。そういった一つひとつの言葉の持つイメージに配慮して、なるべく平坦に、広く伝わるように心がけて文章を書くのが、編集ライターという仕事である。

 この『左京変人図鑑』についても、創刊したことを人に伝えると「お、いいやん! 変人図鑑って名前がいいね」と言う人と、「面白そう! でも、変人って!」と反応する人がいる。突っ込みたくなるのは当然だと思う。実は、私も初めて聞いたとき、発案者の寺嶋に突っ込んだ(笑)。そんな冊子名でもインタビューを受けてくださるのは、「人はみんなそれぞれ違う」ということを受け入れ、自分の生を楽しんでおられる方たちばかり。他人が自分をどう思うのか、そんな次元を超越して、人生を楽しんでおられる方だからこそ、この冊子の企画意図が伝わるのだろうと思う。人が自分のことをどう思うか。そんな問答に、大切な自分の人生の時間を費やすなんてもったいない!と知っておられるのだ。

 変人とは、自分の「命」を、そして「人生」を、とても大切にしている人のことではないだろうか。そう思うようになってきた。

 では、人と違うことをしようとするとき躊躇する人は、自分よりも人の命や人生を優先しているのだろうか。「利他の精神で生きましょう」という人は一定数存在する。しかし、俯瞰すると、「利他の精神を持つ自分」が大切なのであり、結局のところ、その方も「自分」を大切にしている、とも考えられるのではないだろうか。

 変人を批判的に捉える人は、「協調性がない」「自己中心的」「利己的」と捉えている傾向があるように思う。でも、視座の違いがあるだけで、どちらも「自分」を中心にしているのではないか。「自己中心的」という言葉は多くの場合、否定的、批判的に使われるけれど、実際は、だれもが自己中心的。そもそも、私たちは、どこまでも自分を中心にしか生きられないものではないかと思う。

 幼いころは利己的だが、大人になるに連れて利他的になるものだと、利他を美学とする人は言う。それは一理あるけれど、「鶏が先か、卵が先か」の論争に似ている。利他と利己。どちらの視点も必要だ。光と陰、どちらも必要。水と火、どちらも大切。というのと同じではないだろうか。

 私たちはみんな生きるために存在している。必要があって生を受けている。そう仮定すると、だれもがそれぞれの命を大切にして、だれもが自分のため、かつ、みんなのために生きればいい。

 利他と利己は、ひとりの人間のなかで共存できる。そこにタイムラグはある。リアルタイムに全員が利己状態になることは不可能だろう。でも、例えば、正面から歩いてきた人とお互いに「どうぞ」と道を譲り合うように、少しずつ時間や空間を譲り合いながら生きる。だれかの利己のために、別の誰かが利他になる。そんな風に譲り合えたらいいのではないか。

 宇宙という「全体」と、自分という「個」。どちらかだけじゃなくて、どちらも大切にする。それが生きるうえで大切なことである。変人と呼ばれる人は、きっとそれを教えてくれている。

左京変人図鑑 副編集長 藤嶋 ひじり

 「わかるはずだ」に話を戻す。「この人、どこか変わっている」。違いを見つけると、人は、避けようとしたり排除しようとしたりする。でも、私たちは「人」のことをわかる必要はそもそもないのではないか。心理学でいう「共感」は、同じ気持ちになる(同感)ことではなく、立場を置き換えて考えてみるということ。それぞれ異なる肉体で、異なる視点で環境で生きてきた他者のことを想像でわかろうなんて無理がある。ある意味、傲慢だ。わからないことは罪ではないし、わかってもらえないことは寂しいことではない。ただ、わかろうとする。歩み寄る。想像する。相手を自分寄りに変えようとする必要もなければ、同じになる必要もない。考えや性格が自分と完全一致する人を探すのは無意味だ。なぜなら自分と一致するのは自分だけだから。違いこそ、唯一無二の証明。存在意義だ。それぞれの「変わってる」を、ただお互いに尊重できれば、この世はもっと生きやすくなる。私はそう思うのだ。

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